その他の事例、そして日々の窓口での判断—— 「これは断るべき?」「確認だけで進めていい?」 偽造通貨、貸金庫、口座の貸し借り、保険の申込み…… 現場で迷いやすい場面を、一問一答で確認しましょう。
- 「その他の事例」は幅広い。偽造・盗難通貨での入金、複数人が別々窓口で多額取引、実質的支配者の確認拒否、自行職員自身の不審な取引などが含まれる。
- 外国PEPs(重要な公的地位にある者)や、非営利団体を装った資金移動、在留期間が満了した外国人口座の悪用にも注意。
- ティッピングオフ=疑わしい取引の届出をしたこと(しようとすることも)を、顧客やその関係者に漏らすのは犯収法で禁止(8条4項)。「注意のため」でも伝えない。
- 貸金庫の頻繁利用で真の利用者が隠れている疑い、給与受取なのに複数口座——実務では健全な懐疑心を持って必要性を確認する。
- 金融包摂=不法な口座譲渡が疑われても、正当な理由なく全顧客を一律に謝絶しない。母国語資料で説明するなど、正当な利用者を排除しない工夫が大切。
- 保険では、属性・収入に見合わない多額の現金保険料、事業実体のない法人、不自然な早期解約に注意。収入に見合わない高額契約は資金の出所を確認する。
金融庁の「疑わしい取引の参考事例」には、これまでの類型に収まらない「その他の事例」もまとめられています。偽造・盗難通貨での入金、複数人による分担した取引、実質的支配者の確認拒否、さらには自行の職員自身の不審な取引まで、幅広い場面が対象です。
その他のあやしさ(こんな取引に注意)
- 通貨・証券がおかしい…にせ札・盗品の通貨や証券での入金で、持ち込んだ相手がそれと知っている疑いがある
- 分担・隠れた主体…複数人が同時に来て別々の窓口で多額の現金・外貨取引/実質的支配者や真の受益者の確認を拒む/表に出ない自行職員が関与し利益を受ける者が不明
- 身元・国際性のリスク…暴力団や国内外の犯罪組織に関わる疑い/外国PEPs(重要な公的地位にある者)で原資に合理性がない/在留期間が切れた外国人口座の悪用
- 団体を装う…お金の出どころや使いみちに合理性のない非営利団体/活動内容と関係のない国・地域への送金
窓口では「断るべきか、確認だけで進めてよいか」に迷う場面があります。ここで大切なのが、届出をしたことを顧客に漏らさないティッピングオフの禁止と、正当な利用者を排除しない金融包摂の2つの考え方です。
実務対応のポイント
- 貸金庫…毎回同じ人物を連れて指図を受けている様子など、真の利用者を隠している疑いがあれば、本人確認が済んでいても届出を検討
- 複数口座…給与受取の口座があるのに同じ目的でもう一つ申し込むなど、必要性が不自然なときは健全な懐疑心で確認
- 口座の貸し借り…知人に口座を貸していた事実が判明——届出をしても、そのことを本人や関係者にティッピングオフ(漏らすこと)してはならない(犯収法8条4項)
- 一律謝絶にしない…不法な口座譲渡が疑われても、母国語資料で説明するなど金融包摂の視点で、正当な利用者まで排除しない
保険の申込みでも、属性・収入に見合わない多額の現金保険料、事業実体のない法人、不自然な早期解約などはレッドフラグです。一方で、資金の出所を確認して合理性が説明できれば、受け付けてよい場合もあります。
保険の実務対応(こんな取引に注意)
- 見合わない現金…延滞分をまとめて払ったうえ多額を現金で前納するなど、属性・収入・資産に見合わない多額の現金保険料
- 法人の実体…オフィスがマンションの一室で商売の気配がないなど、事業実体のない法人や実質的支配者が犯罪収益に関係する疑い
- 早すぎる解約…契約直後の解約や、加入前から早期解約時の返金試算を強く求めるなど、経済合理性から見て異常な取引
- 出所を確認して判断…収入に見合わない高額契約でも、相続などで資金の出所が確認でき、銀行振込であれば受け付けてよい場合がある
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問題 1 / 24
3人連れの初めての客が連れ立って来店し、それぞれ別の窓口で多額の外貨取引を申し込んだ。各窓口で一人ずつきちんと取引時確認をしたのであれば、疑わしい取引として気にかける必要はない。
複数の人が同時に来店し、別々の窓口担当者に多額の現金取引や外国為替取引を頼む一見の客は、参考事例として挙げられており、取引時確認をしていても、疑わしい取引に当たるか検討が必要です。
問題 2 / 24
銀行などで働く職員は対策の大切さをよく分かっているのだから、その職員自身が行う取引は、疑わしい取引のチェックの対象にしなくてよい。
自行の職員やその関係者による取引で利益を受ける者が不明なもの、また職員が犯罪収益の隠匿・収受の罪を犯している疑いのある取引も事例に挙げられており、職員自身の取引も監視の対象になります。
問題 3 / 24
にせ札や盗まれたお金で入金が行われ、それを持ち込んだ相手が、にせ物・盗品だと知っていた疑いがあると認められるときは、疑わしい取引として注意すべきである。
にせ札・にせ証券や盗品の通貨・証券で入金され、相手方がそれを知っている疑いがある場合は、参考事例として挙げられており、注意が必要です。
問題 4 / 24
客が「届出はしないでほしい」と頼んできても、強要や買収ではなく単なるお願いにとどまるのであれば、疑わしい取引には当たらない。
取引の秘密を不自然に強調する客や、届出をしないよう依頼・強要・買収などを図った客の取引は、参考事例として挙げられており、単なる依頼であっても注意が必要です。
問題 5 / 24
会社を実際に支配している人(実質的支配者)など真の受益者を確かめようとしたのに、その説明も資料の提出も断られた——こうした取引は、疑わしいものとして注意すべきである。
実質的支配者やその他の真の受益者を確かめようとしても説明や資料提出を拒むのは、真の関与者を隠している可能性があり、参考事例として注意が必要です。
問題 6 / 24
公務員や会社勤めの人が、その給与収入では説明のつかない大きな取引をしている場合には、疑わしい取引として注意を払う必要がある。
公務員や会社員が、収入に見合わない高額な取引を行うのは、資金の出所が不明な可能性があり、参考事例として注意が必要です。
問題 7 / 24
日本での在留期間が切れた外国人の名義の口座で、他人へのなりすましや口座の売り買いが疑われるときは、疑わしい取引として注意を払う必要がある。
在留期間が満了した外国人の口座で、なりすましによる利用や口座の売買等が疑われる場合は、参考事例として挙げられており、注意が必要です。
問題 8 / 24
非営利の団体は公益的な性格が強いので、お金の出どころや最終的な使いみちに納得のいく説明がなくても、疑わしい取引として気にする必要はない。
資金の源泉や最終的な使途に合理的な理由が認められない非営利団体との取引は、参考事例として挙げられており、公益性が高いとされる団体でも注意が必要です。
問題 9 / 24
ある貸金庫の契約者が毎回同じ人物を連れて来て、その人物から指図を受けている様子だった。ただ本人確認はきちんと済んでいるので、特に何も対応しなくてよい。
頻繁な貸金庫の利用で、真の利用者を隠している可能性がある場合は、本人確認が済んでいても、疑わしい取引の届出を検討すべきです。
問題 10 / 24
すでに給与振込用の口座を持つ公務員が、同じ給与の受け取りを目的に、もう一つ口座を作りたいと来店した。本人確認さえすれば、そのまま開設して差し支えない。
同じ給与受取という目的でありながら、なぜ複数の口座が必要なのかは健全な懐疑心を持って確認すべきであり、状況によっては疑わしい取引の届出も検討する必要があります。
問題 11 / 24
外国人実習生が帰国のときに口座を解約せず他人に売り渡す例が続いたとしても、同じ国の人すべてをまとめて門前払いにするのではなく、母国語のちらし等で口座の譲渡は犯罪だと伝える努力をするのは、望ましい対応である。
合理的な理由なく特定の顧客層を一律に排除するのは避けるべきで、母国語の資料などで口座譲渡が不法行為であると説明するなど、正当な利用者を排除しない金融包摂の視点が大切です。
問題 12 / 24
ある顧客の口座で出入りが頻繁だったため確認すると、知人から頼まれて名義を貸していたと判明した。今後の注意をうながすつもりで、その人に「届出をした」と教えた。
犯罪収益移転防止法8条4項では、届出をしようとすることや行ったことを、その顧客や関係者に漏らしてはならないとされています(ティッピングオフの禁止)。注意のためでも伝えてはいけません。
問題 13 / 24
対策が行き過ぎて、本来なら正当にサービスを利用できるはずの人まで金融から締め出してしまうのは、避けなければならない。
犯罪の要素を防ぐ手立てが過度になり、本来の金融サービスを正当な理由で受けられる人々まで除外してしまうことは避けるべきで、金融包摂の考え方が求められます。
問題 14 / 24
疑わしい取引の届出は、その取引が成立したかどうかとは関係なく、不自然な点があれば検討の対象になる。
契約や取引が成立しなかった場合でも、不自然な点があれば疑わしい取引の届出の対象になり得るため、取引成立の有無だけで判断しないことが大切です。
問題 15 / 24
届出の内容を顧客に漏らしてはならないという決まりは、すでに届け出た場合だけに関わるものであり、これから届け出ようとしている段階を客に伝えることは差し支えない。
犯罪収益移転防止法8条4項では、届出を「行おうとすること」も「行ったこと」も、顧客や関係者に漏らしてはならないとされており、届出前の段階も禁止の対象です。
問題 16 / 24
届出をするかどうかは、参考事例に見かけ上あてはまるかだけで決めず、その客の素性や取引の事情まで含めて総合的に見極める。
参考事例はあくまで目安であり、形式的な合致だけで判断せず、顧客の属性や取引の背景を踏まえて総合的に判断することが求められます。
問題 17 / 24
保険料を滞納していた会社が、滞納分をまとめて払い、さらに10年分を現金で先払いしたいと言ってきた。代表者に理由を尋ねても要領を得なかったが、以前から契約のある法人なので、届出は考えずに申し出を受け入れた。
契約者の属性・収入・資産・過去の取引額等に見合わない高額の保険料を多額の現金で支払う取引は、参考事例に当たる可能性があり、既契約の法人であっても届出の検討が必要です。
問題 18 / 24
従業員向けの福利厚生として生命保険に加入したいという会社を訪ねたら、オフィスはマンションの一室で商売をしている気配がなかった。それでも信頼できる取引先の紹介だからと、届出を考えずに引き受けた。
事業実体のない法人や、実質的支配者その他の真の受益者が犯罪収益に関係している可能性がある取引は参考事例に当たる可能性があり、紹介であっても事業実体の確認と届出の検討が必要です。
問題 19 / 24
法人代表者が総合福祉団体定期保険に入りたいと言い、保険料は1年分の一括払いを希望した。加入前から、早く解約したときに戻る保険料の見積もりまで欲しがったが、実際に解約するかは決まっていないので、届出はいらないと判断した。
加入前から早期解約時の返金を気にするなど、不自然に早い解約を前提とする取引は、経済合理性から見て異常な取引として参考事例に当たる可能性があり、届出の検討が必要です。
問題 20 / 24
公務員の既存顧客が一時払いの生命保険を申し込んだ。給与にしては高額だと感じた担当者が資金の出どころを尋ねたところ、相続で得たお金で、支払いも銀行振込だと分かったので、申し出を受けた。
収入に見合わない高額な保険契約でも、取引時確認で資金の出所を確認し、相続による資金で銀行振込であると合理的に説明できれば、申出を受け付けてよい場合があります。
問題 21 / 24
収入に不釣り合いな高額の保険契約を持ちかけられたとき、取引時確認の中で資金の出どころを確かめるのは、適切な対応といえる。
収入に見合わない高額な保険契約では、資金の出所を確認することで取引の合理性を判断でき、疑わしい取引かどうかを見極めるうえで適切な対応です。
問題 22 / 24
一時払いの生命保険は保険料を一括で払うだけの手軽な取引だから、金額が大きくても、マネー・ローンダリングに使われる恐れは小さい。
蓄財性の高い一時払いの保険は、犯罪収益を保険料に充てて解約・払戻しを受けるなど、マネー・ローンダリングに悪用される危険性があり、高額であればとくに注意が必要です。
問題 23 / 24
保険の取引でも、実体のない会社や、その会社を実際に支配する者・真の受益者が犯罪収益とつながっている疑いがあるなら、疑わしい取引の届出を検討すべきである。
保険会社の取引でも、事業実体のない法人や、実質的支配者その他の真の受益者が犯罪収益に関係する可能性がある取引は、参考事例に当たる可能性があり、届出の検討が必要です。
問題 24 / 24
保険金や払戻金が多額であるのに、あえて現金や小切手での受け取りを求めてくる顧客との取引は、疑わしい取引として注意すべきである。
多額の保険金支払や保険料の払戻しにもかかわらず、現金や小切手による支払を求める顧客の取引は、参考事例として挙げられており、注意が必要です。

第7章 疑わしい取引
疑わしい取引の参考事例(その他の事例・実務対応)
疑わしい取引の参考事例(その他の事例・実務対応)
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第7章⑪まとめ:疑わしい取引の参考事例(その他の事例・実務対応)
- その他の事例=偽造・盗難通貨での入金/複数人が別々の窓口で多額取引/実質的支配者・真の受益者の確認拒否/自行職員自身の不審な取引/暴力団・犯罪組織への関与/外国PEPs/非営利団体を装う送金/在留期間が満了した外国人口座の悪用。
- ティッピングオフの禁止(犯収法8条4項)=届出を「行おうとすること」または「行ったこと」を、顧客等またはその関係者に漏らしてはならない。「注意のため」でも伝えない。
- 金融包摂=不法譲渡が疑われても正当な理由なく一律に謝絶しない。母国語資料で説明するなど正当な利用者を排除しない。過度な対策で金融サービスから締め出さない。
- 貸金庫の頻繁利用+真の利用者の隠匿は届出を検討。給与受取なのに複数口座は、必要性を健全な懐疑心で確認する。
- 保険の窓口=属性に見合わない多額の現金保険料/事業実体のない法人・実質的支配者/不自然な早期解約は該当可能性。収入に見合わない高額契約は資金の出所(相続・振込等)を確認して判断。既契約の法人でも不審なら検討。
- 疑わしい取引の届出は、取引が成立したかどうかを問わず、参考事例に形式的に当てはまるかだけでなく、顧客の属性や取引の背景を踏まえて総合的に判断する。
【頻出ひっかけ】 ・自行職員の取引は監視対象外 → ✕(職員自身も対象) ・届出したことを「注意」として顧客に伝える → ✕(ティッピングオフ禁止・犯収法8条4項) ・口座譲渡が多いから外国人は一律に口座開設を謝絶 → ✕(一律謝絶は避ける=金融包摂) ・既契約の法人だから保険料が現金前納でも検討不要 → ✕(属性に見合わない多額現金は該当可能性) 試験、頑張ってください‼
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